雨の夜に星が見えたら、それは城が夢を見ている印

城が夢見る夜

紅龍斎雲煙 画 ・ 朗読 約2分 ・ 2026年10月4日

浮世絵「城が夢見る夜」 紅龍斎雲煙 画
紅龍斎雲煙「城が夢見る夜」

物語

入り江のほとりに、古い城が立っています。 町の人たちは、昔からこう言い伝えてきました。 「雨の夜に星が見えたら、それは城が夢を見ている印だ」

その夜も、海から冷たい雨が吹きつけていました。 番傘を差した人たちが、濡れた石畳を急ぎ足で帰っていきます。

ひとりの少女が、ふと足を止めて空を見上げました。 雨は降り続いています。それなのに、空には三日月が浮かび、 大きな星がいくつも、うずを巻く雲の中で輝いていました。

塔の窓に、赤い灯りがともります。 ひとつ、またひとつ。まるで城が、ゆっくりと目を覚ましていくようです。 塔の上では、赤い竜の旗が風にはためいていました。

七百年もの間、城はこの入り江を見下ろしてきました。 戦の夜も、嵐の夜も、ただ黙って立ち続けてきました。 その城が、今夜だけは、星の夢を見ているのです。

入り江の波が、星の光をひとつずつすくい上げていきます。 やがて雨は細くなり、星はいっそう明るくなりました。

少女は、そっとつぶやきました。 「おやすみなさい。いい夢を」

翌朝、町の人たちは口々に言いました。 「ゆうべは、雨の中に星が見えたね」 けれど、その星の数をはっきり覚えている人は、誰もいませんでした。